目次
はじめに
英語を効率的に習得するための方法は数多くありますが、その中でも最近特に注目され、効果があるとされている方法のひとつが「イマージョンラーニングです。
この学習方法は、日本にいながらも、映画や音楽、Youtubeなどを通じて英語にどっぷりと浸かることで、自然と英語を習得していく、非常に実践的で効果的な学習方法です。
しかし、この学習方法は効果を実感できるまで時間がかかる勉強法であり、不安になることが多々あると思います。
本当にこのまま続けてできるようになるのか?
時間が無駄になるのではないか?
そんな方にお勧めの記事です。
本記事では、イマージョンラーニングをするうえで遭遇する疑問や不安に対して解説し、効果的な学習を実現するためのアドバイスを提供します。
イマージョンラーニングにおける代表的な不安と解決策
①「全然理解できないままで良いのか?」
悩み:映画やドラマの内容がほとんど分からず、ただ見ているだけで意味があるのか疑問に感じる。
回答:あまりにも理解できないとストレスを感じ、嫌になってしまいます。ストレスを感じながら学習を続けると、記憶力や集中力の低下により学習効率がよくありません。
また忙しい中、時間を作って学習しているのに、苦痛を伴いながら成長も感じられないと、継続することが困難になってしまいます。
対処法としては、初めは効果を焦らずにタスクのハードルを下げて、「これなら続けられる」と思えるくらい簡単にすることがおすすめです。
- ご飯を食べる時等に5分だけ見る
- 自分が一度見たことのある作品等、なじみのある作品を見る
- 日本語音声・英語字幕で見る
簡単なタスクにすると継続することができます。それが習慣になるとアイデアや挑戦心も増してきます。その結果、自然と英語に触れる時間が今までよりも増えていき、何度も目にする語彙やフレーズが出てきて効果を感じられます。
そうすれば「英語音声・英語字幕にしてみよう」「前は理解できなかったものに挑戦してみよう」というモチベーションが自然と湧いてきます。
筆者も初めの半年は、日本語音声・英語字幕でアニメを見ていました。
その後に、「同じ作品を英語音声・英語字幕で見たら内容わかるんじゃないか?」と思いました。実際に、かなり理解をすることができてイマージョンラーニングの効果を実感することができました。この成功体験をもとに、現在まで楽しく継続することが出来ています。
②「覚えた気がしない」「語彙が増えている実感がない」
悩み:単語帳のように明確な成果が見えにくく、学習している感覚が薄い。
回答:実際に、単語帳はテスト対策に有効な単語数に絞られているので、回転しやすく、成果も感じられやすいと思います。
反対にイマージョンラーニングは、様々な分野の動画等を見るため、この点では単語数が絞られずに効率が悪く感じます。
しかし、イマージョンラーニングには以下のようなメリットがあります。
①感情的な結びつき:感情に関連した情報は記憶に残りやすいと言われています。映画やドラマを通じて英語を学んでいると、ストーリーやキャラクターに感情移入することが多く、その過程で学んだ英語の表現も記憶に定着します。
また記憶をつかさどる海馬は、リラックスしている時や楽しんでいる時に活発になるため、娯楽として映画や動画から学ぶことで、より楽に記憶に刻まれます。
②文脈や映像で学べる:シチュエーションや映像付きで、セリフからフレーズを学ぶことで、実際にどのようなときに使われる単語なのかを自然と記憶することが出来ます。そうなると、いざ自分が英語を話すときに無意識にフレーズが湧いてくるようになります。
③圧倒的な時間、量を稼げる:単語帳で暗記することは機械的で、せいぜい数十分程度で飽きてしまいます。しかし、イマージョンラーニングによって楽しみながら学習すると、一日何時間も英語に触れることが出来ます。しかも暗記しようという意識もないまま、記憶に刻まれます。
結果的に試験などが控えていなくても、娯楽として日々英語を取り入れることが出来るため、トータルで量を稼ぐことが出来ます。量が稼げると、反復する回数が自然と増えるため、記憶の定着率が上がります。
記憶の定着には反復学習が欠かせません。CMで企業名やメロディーを覚える気がなくても、自然に覚えてしまうことがよくありますよね。これと同じように、英語の単語やフレーズも何度も耳にすることで、気づかぬうちに記憶に刻まれていきます。
思い出せないだけで、脳には刻まれている
また、一見覚えられていないように感じても、実は脳には刻まれています。
思い出せない事≠記憶に刻まれている。
実際に、数年前に観た映画や聴いた音楽を、思い出してみてと言われても、大部分はすぐには答えれられないでしょう。しかし久々に見たり聴いたりした時に、メロディやセリフなど意外と覚えているという経験をしたことがある人も多いでしょう。
筆者もネットフリックスを見漁るうちに、懐かしい作品をたくさん見ました。最近まで10年前に見た以来タイトルすらも忘れていたのに、久々に見ると、ストーリー展開やセリフや音楽を覚えていたりしました。
これは、情報が一度脳に記録されると、しばらく忘れていても再度接触することで記憶が呼び起こされるためです。イマージョンラーニングも同様で、何度も繰り返し触れていくことで、英語のフレーズや単語が無意識に記憶に刻まれていくのです。
最近見た映画の単語やフレーズが思い出せなかったり、効果の実感が薄く感じても、しっかり脳には刻まれています。
イマージョンラーニングによって語彙を獲得する過程
初めは意味が分からなかった単語やフレーズが、次第に「よく耳にするな」と感じるようになり、そのうち理解できるタイミングがきます。
このような流れで語彙力を獲得します。
なじみのないフレーズや単語を見る→スルーする→何度も見かけるようになる→気になる→単語の意味を調べる→”どういう場面で、どんな人が、どんな感情で使うか”が理解できる→再度見かける頃には、なじみがあるものになっている
イマージョンラーニングをしていると、これらの工程を意識しなくても自然と繰り返します。
初めはわからない単語やフレーズだらけで、中々スムーズに映像を見る事が出来ずに、ストレスを感じると思いますが、数か月も続けると、だんだんなじみのあるフレーズばかりになります。
また、学習を続けるうちに知らない単語がでてきても、気にしなくなります。そのうち自分のものになるタイミングがくるとわかっているからです。
他にも英語のスラングや口語表現、文化的な背景やユーモアについても、理解できないと感じることがあります。
しかし、上記と全く同じ過程を辿るため、イマージョンラーニングによってインプットすればするほど理解度が増します。
③「このまま続けても話せるようになるのか?」
インプット中心の学習なので、アウトプット(会話力)に結びつくか不安。
「言語は話してなんぼ!」
「話す練習をしないと、いつまでも話せるようにならない!」
という意見があります。
確かに、これは一理あると思いますし、インプットだけしていても、スピーキングの練習をしていなければ、流ちょうに話せないと思います。
ですが、逆に話す練習から始めるのも効果的ではありません。
インプットが足りていない状態で英会話の練習をする弊害
インプットが足りていない状態で、無理やり英語で話そうとすると、
英語を聞く→日本語に訳す→日本語で話したいことを考える→正しい文法をあてはめながら、英語に無理やり翻訳→不自然な英語になる
このように大量の工程を踏むため、会話のテンポが悪くなる上に、脳のリソースをかなり使います。
しかし、イマージョンラーニングによって大量にインプットしてからスピーキングの練習をすると、こうなります。
英語を聞く→インプットされた英語の中から、状況に合ったものをそのまま話す
イマージョンラーニングによって大量にインプットしていると、なじみのない英語を翻訳したり、話したいことを文法的に考える工程が減るため、英会話にとても効果的です。
余談ですが、日本の英語教育や受験英語は、英語を日本語に翻訳する能力を向上させるようにできていると思います。(英単語や長文を日本語に訳したり等)
日本語で考えていることを即時に英語に翻訳することは、英語を英語のままインプットして、それをアウトプットすることよりも、難易度が高く大変な作業なのでは?と思います。
なので同時通訳の方などは、ただ英会話ができるよりもすごいことをやっていると思います。
海外にいながら、日本語をイマージョンラーニングによって学んだ方の動画
やはり、大量にインプットしてから、話す練習を推奨しています。YouTubeでは、日本語を学習している海外の方がたくさんいます。
日本語をペラペラに話せる外国人の大半が、漫画やアニメで日本語に興味を持ち、その後この工程で学習しています。
➃「時間が無駄になっていないか?」
悩み:大量の時間を英語コンテンツ視聴に使うが、効果がすぐに出ないため焦りを感じる。
回答:語学の学習には大量の時間が必要です。数か月で話せる、聞けるようになることは再現性が低い事だと思います。
どれくらいのレベルを目指すかによりますが、一般的に外国語を不自由なく聞けて話せるというレベルになっている方は、3年、5年、10年以上などのスパン学習に費やしているケースが多いです。
「皆それくらいかかるものなのだ」と、理想や期待値を下げて、長期目線で気楽に学習することで焦りが和らぎます。
母国語である日本語も、数十年の長い時間使い続けて今のレベルになっていますよね。海外の日本語学習者の方からしたら、何千もの漢字を書ける、読めることや同音異義語、擬音語、てにをは、などなど日本語学習は、実はめちゃくちゃ難易度が高いのです。
しかし、日本人は当たり前に使い分けることが出来ます。とてもすごい事です。時間をかけて自然に学べば、高度なこともできる能力が既に備わっているのです。
➄「同じ作品を何度も観る意味があるのか?」
悩み:繰り返し視聴が推奨されるが、「飽きるだけでは?」と疑問に思う。
回答:その通りです。飽きると脳の働きが低下して、学習効率が悪くなります。
飽きたら次の新しい作品を見ましょう。間を空けて忘れたころに戻ってくると効果的です。前よりも、リスニング力、理解力、語彙力の向上を実感出来て、モチベーションが加速します。
このことについて以下の記事で、20ヶ国語を学習している、スティーブ・カウフマンの動画を例に詳しく紹介しています。
➅「ネイティブのスピードについていけない」
悩み:何度聞いても早口すぎて聞き取れず、モチベーションが下がる。
回答:イマージョンラーニングを始めたての頃は、慣れないフレーズや語彙で思考が停止して、ついていけなくなることは多々あります。
ですが継続していると、頻繁に同じ表現や語彙に出会います。
脳に馴染んだ表現は「またこのフレーズね」と処理が早くなります。
なんなら、話し手の発音が適当で、聞き取れないような場面でも推測で補えたり、話す前から、「このフレーズを言うだろうな」と先読みできるようになります。
結果、ネイティブのスピードについていけるようになります。
⑦「自分にはレベルが高すぎるのでは?」
悩み:初心者がいきなり英語の映画やドラマに挑戦して、自分にはまだ早いのではと感じる。
回答:大変な割に、あまり効果が感じられない時に、このような思考になってしまいます。
とにかくハードルを下げてみてください。上記で述べた通り、
- 日本語音声・英語字幕で慣れる
- 一度見たことのあるものを見直す
- 1日5分でもいい
- 1日1個新しい語彙調べたらいい
など、ハードルを下げてみることがおすすめです。
それでも初歩的な単語や文法もわからず、やり直したほうがいいと感じモチベが下がっているのなら、一度中学レベルの基礎を学習し直すことは効果的だと思います。
こちらの記事で、英語の基礎力を習得できる教材を紹介しています。
⑧「この学習法は自分に合っていないかもしれない」
悩み:周囲がテキスト学習やオンライン英会話をしている中、自分だけ違う方法で不安になる。
回答:しっくりこなければ一度辞めて、他の方法を試してみることもありだと思います。学習法は一つではないし、様々なことを試して一番しっくり来たことをやるのが、モチベーション的にも良いです。
後でやっぱりイマージョンがいいかもしれないと思えば、その時に再挑戦したらいいと思います。
⑨子供のころからやっていないと無理なのでは?
回答:上記に挙げた動画の方のように、大人になってからイマージョンラーニングによって、別の言語をできるようになっている方はたくさんいるので大丈夫です。
⑩地頭がよくないとできないのでは?
回答:地頭や過去の経験等によって、成果を感じられる期間に個人差はあると思います。
これはスポーツでもゲームでも勉強でもなんでもそうです。
脳は効果的な行動で構造的に変化する
しかし、効果的なノウハウを実行すれば確実に伸びます。脳は何歳になっても、使えば使うほど構造的に変化します。
1. 灰白質の構造的変化(側頭葉・下前頭回・頭頂葉など)
- 左側頭葉や下前頭回(ブローカ野)など言語関連領域の灰白質密度が増加することが、fMRI・VBM研究で確認されていますPMC+1ウィキペディア+1。
- たとえば、9週間の集中的な第2言語学習でも、左頭頂葉灰白質の増加が観察されており、イマージョンにより短期間で構造的変化が起きるとされていますFrontiersPMC。
2. 白質(神経線維)の可塑性向上
- 第2言語学習により白質のミエリン化が進み、側頭葉・前頭連絡経路が強化されるというPNASなどの研究があり、
➡ 大人でも言語ネットワークの効率(接続性)が高まることが示されていますウィキペディアPNAS。
3. 機能的活動の変化(fMRI アクティベーション)
- イマージョン学習者は、語彙・文脈理解時にWernicke野(側頭葉後部)やBroca野(下前頭回)が強く活性化される傾向がありますCureus+5British School of Barcelona+5Memory and Aging Center+5。
- また、L2中での左右連結ネットワークが強化され、認知制御機能とも連動する活性化パターンが確認されていますNature。
4. 脳波/ERPパターンがネイティブに近づく
- 長期イマージョン学習者では、N400成分や他のERPがネイティブと類似するという報告もあり、
➡「聞いてすぐ意味がわかる処理」が可能になっていることが示唆されています(学術誌研究より)サイエンスダイレクトFrontiers。
脳の研究はまだまだ未知のことがたくさんありますが、実際に使えば使うほど伸びるというのはモチベーションの一つになります。
やれば伸びるという成長マインドセットの効果
また、先天的なものと諦める「固定マインドセット」よりも、やれば伸びると考える「成長マインドセット」を持つ方が、実際に成果が出ることも研究で明らかになっています。
Carol Dweck(キャロル・ドゥエック)の実験
スタンフォード大学のDweck教授は、「成長マインドセット(努力で能力が伸びる)」と「固定マインドセット(能力は生まれつき固定)」を比較する様々な研究を行いました。
その結果、成長マインドセットを持つ学生は、挑戦を学習の機会と捉え、失敗に前向きにアプローチして成果を出しやすいことが明らかになっています online.hbs.eduSpringerOpen+13Teaching Commons+13lifescied.org+13。
5. イマージョンラーニングの具体的な実践方法
イマージョンラーニングを実践するためには、以下のような方法を取り入れると良いでしょう:
英語の映画やドラマ、Youtubeを観る
英語音声・英語字幕で日々、娯楽のように楽しみます。はじめは日本語音声・英語字幕で理解をするのも効果的です。
英語の音楽を聴く
英語の歌詞を覚えることで、リズムとともに語彙を覚えやすくなります。また、Youtubeには日本の曲を英語に吹き替えて歌っているものも多々あり、かなり勉強になります。
ゲームを英語版でプレイする
ソシャゲやPCのゲームなどの言語設定を英語にすることで、英語に触れる量を、楽しみながら自然と増やすことが出来ます。単語帳などには載っていないようなゲーム用語、ファンタジーや神話等の語彙を学ぶことができます。
英語のニュースを読む
英語のニュースを読むことで、現代の言葉や表現を学ぶことができます。また、時事問題について英語でインプットすることで、政治系の語彙力や表現力が向上します。映画やドラマでも政治的なシーンがあるので効果的です。Xなどで、英語圏のニュースアカウントをフォローするのもおすすめです。
7. まとめ
イマージョンラーニングは、英語を効率的に学ぶための非常に効果的な方法です。日常的に英語に触れることで、自然と語彙やフレーズを覚え、実際の会話で使えるようになります。
最初は理解できないこともありますが、繰り返し学び続けることで、気づいた頃にはたくさんの語彙力を獲得することが出来ます。